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6月 「人生いかに生きるべきかを学ぶ会」 ~ 長野惠泉塾 四宮直美さんの報告より ~

2020年4月、コロナ騒動が本格化し、全国が自粛ムードになりつつあった頃、突然、かつての教え子から連絡がありました。第一志望の大学に合格したことで当面の目標を失い、人生の目標をどこに設定すればよいかわからず、立ち往生してしまったというのです。

「インマヌエル学院のおかげで身につけた精神力で、高校生活を無事、有意義に過ごすことができました。ただ、受験が終わってからの自分は燃え尽き症候群です。将来薬剤師になるのはいいのですが、働いたお金でしたいことがあまり無く、勉強の熱も並み程度しかありません。大学院に行く道もあるそうですが、研究したいテーマもありません。こうやって生きていて、心からしたいと思えることが見つかる人は少ないと思います。僕もその一人です。今日、明日、明後日、と毎日の繰り返しにあまり楽しみを見出せず、目標もないため、やるべきことも見いだせません。そんなとき、先生を思い出し、相談しようと思いました」と。

S君との出会いは6年前、彼が中学1年の2学期でした。中学校の勉強についていけず、自暴自棄になりかけている頃、最新のスマホを買ってもらえないことに腹を立て、自室に立てこもっているところに呼び出されたのです。それから約2年半、彼は私たちの期待をはるかに超えて成長しました。しかも、第一志望の高校に合格できただけでなく、「生きる喜び、学ぶ楽しさ」を全身で受け取ってくれた生徒の一人でした。

その彼が今、卒業後3年経って今度は勉強ではなく、「人生いかに生きるべきか」について、再び教えてほしいと門をたたいてくれたのです。彼が人生を真面目に考える青年に育ち、そのように行き詰まったとき、私たちのことを思い出してくれたことはさらに嬉しいことです。できることは何でもしようと、再び教師熱に火が灯ったのは言うまでもありません。

3年振りに電話で話しましたが、時間の経過を感じさせないほどすぐに打ち解けて話すことができました。そして、彼の悩みがとても本質的で、答えが即、聖書の真理にあることが分かりました。幸い世はコロナ禍にあり、大学はオンライン授業のみで、時間は自由に使えるとのこと。早速、インマヌエル学院の先生たちと共に週一回、オンラインでの「人生いかに生きるべきかを学ぶ会」がスタートしました。

最初のテキストは内村鑑三の『代表的日本人』。そこで私たちは、日本にも本気でこの問題に取り組み、命懸けで生き抜いた人がいること、彼らの生き方を通して「見えざるもの(徳)」にこそ価値があり、即物的で経済中心、自己中心が当たり前の現代日本の教育に決定的に欠けているものがあることを教えられました。S君は渇いた地面に水がしみ込んでいくように、大切な真理を受け取りつつあります。また、インマヌエル学院時代にも、私たちの生き方から多くを学んでいたことを知りました。彼の発言の一部を紹介します。

「お金は生きていく上では大切でも、それが幸せに直結するわけではなく、それよりも、人との繋がりや、全体の利益を考え、天に身を捧げる姿勢が大切だと分かった。少しずつ実行していきたい」「お金について、まだ自分には利己的な部分があり、考え方を変えていく必要があると思った」「人生は自分で何をするかではなく、人生が自分に何を求めているかを考えて行動するのだ、というコペルニクス的転換がある、とかつて塾で聞いたことを思い出した」「弱い人間か、強い人間か。自分は人の意見に左右され、人の目が気になって不安になるという点で弱い人間だ。人に何を言われても、どう思われても信じることを貫けるような生き方が必要で、自分にもそれ(信仰)が必要だと思った」「自分が弱さを受け入れられたのは、聞いてくれる先生がいたことが大きかった」「今の日本では、宗教の良い面に触れる機会がない。自分は、先生たちに出会えたので、キリスト教の良い面を知ることができた。普通はニュースなどの影響で、宗教の悪い面だけを受け取りがちだが、自分はその時、(キリスト教を)全く悪いとは思わず、むしろすごい人がいるもんだと思った」。

読書会は聖書そのものを学んでいるわけではありませんが、いよいよ聖書の学びをしているようです。S君の表情は回を追うごとにキラキラと輝きを増し、発言に力強さが増し、求めていたものに手応えを感じていることが伝わってきます。

あるとき、現役中学生が、かつての彼のように勉強する意味が見いだせず、ゲーム三昧になっているという話が出たことがありました。人生の先輩として、その中学生に必要なことは何だと思うか?と問われたS君は、「かつての自分のように、本気で真剣に向き合ってくれる存在が必要だと思う。自分も、そんな人がいなければ今はないと思うので…」とアドバイスしたのです。

すぐに、彼を家庭教師として派遣する話になり、彼も快く引き受けてくれました。今度は生き悩む後輩を導く存在として、一歩を踏み出そうとしているのです。しかも、バイトで稼いでいるのでお金はいりません、とキッパリ。改めてその成長ぶりに驚かされました。

5月いっぱいで『代表的日本人』を読み終わり、次なるテキストにはいよいよ聖書を、と考えています。御言葉には力があります。今度は御言葉がS君に何を語りかけるのか、楽しみでしかたがありません。